親からの住宅資金贈与を非課税にするには
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【目次】
[1]贈与税の基礎知識
[2]「住宅取得等資金贈与の非課税」を利用できる条件
1.贈与される人の条件
2.建物の条件
3.その他の条件
[3]非課税制度を利用するときのポイント
1.贈与税の申告を行うこと
2.「相続時精算課税」を選ぶことも可能
3.「小規模宅地等の特例」は受けられなくなる
[4]親から資金援助を受けるときの注意点
[5]まとめ
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マイホームの購入資金を親や祖父母から援助してもらう場合には、一定の金額まで贈与税がかからない「住宅取得等資金贈与の非課税」という制度があります。
この制度を適用できれば、消費税10%なら最大3,000万円の贈与まで贈与税が非課税になります。どういった制度なのか本稿で詳しく解説します。
[1] 贈与税の基礎知識
贈与税とは、相続税を除く、個人からお金や住居などの財産を受け取ったときにかかる税金のことです。
ただし、1年間に贈与を受けた金額が110万円(基礎控除額)以下の場合、贈与税はかかりません。110万円を超えた場合は申告が必要です。
さらに、直系尊属(父母または祖父母)から住宅を取得するための資金の贈与を受け取った場合、一定の金額まで贈与税が非課税になる「住宅取得等資金贈与の非課税」という制度を利用できることもあります。
この制度の適用条件を満たしていれば、最大3,000万円の贈与まで、贈与税がかかりません(消費税10%の場合)。
また、基礎控除と併用もできるので、消費税率が10%での住宅購入や新築・増改築の工事請負契約を結んだ場合、最大3,000万円に110万円(基礎控除額)を足した3,110万円まで贈与税がかかりません(一定基準を満たす住宅の場合)。
次項では、特例を利用するための条件をご紹介します。
[2]「住宅取得等資金贈与の非課税」を利用できる条件
「住宅取得等資金贈与の非課税」の特例を利用するには、贈与を受けた人が次の条件をすべて満たしていなければなりません。
1.贈与される人の条件
贈与される人の主な条件は、以下の通りです。
1 | 住宅の取得に充てるために金銭の贈与を受け、実際にその金銭を住宅の取得資金に充てていること。 |
2 | 贈与を受けた年の翌年の3月15日までに引き渡しを行って居住すること。または居住することが確実に見込まれていること。 |
3 | 直系尊属(父母または祖父母)からの贈与であること。 |
4 | 贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上であること。 |
5 | 贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること。 |
6 | 住宅の取得・新築・増改築の契約の相手方は自身の配偶者、親族など特別の関係がある人でないこと。 |
7 | 贈与を受けたときに日本国内に住所があること(一定の場合を除く)。 |
8 | 贈与の翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告を行うこと。 |
2.建物の条件
建物の条件は、新築と中古で異なります。
新築の条件
1 | 家屋の登記簿上の床面積(マンションの場合には、その区分所有する部分の登記簿床面積)が50平米以上240平米以下であること。 |
2 | 家屋の床面積の1/2以上に相当する部分が専ら居住の用に供されるものであること。 |
3 | 贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住していること、または居住することが確実に見込まれていること。 |
中古の条件 以下3つのいずれかを満たすものが対象になります。
1 | マンションなど耐火建築物は築25年以内、木造などは築20年以内 |
2 | 一定の耐震基準をみたすことが建築士等によって証明された住宅 |
3 | 購入後に耐震改修工事を行い、贈与を受けた年の翌年3月15日までに建築士等によって一定の耐震基準に適合すると証明された住宅 |
3.その他の条件
非課税枠には上限額があり、以下の条件によって金額は異なります。
1.一定の要件を満たしている住宅か 2.住宅を購入したタイミング |
具体的にどのような内容なのかみていきましょう。
1.一定の要件を満たしている住宅か
購入した住宅が、省エネ・耐震・バリアフリーなどの一定の要件を満たしているか、いないかによって非課税の限度額が異なります。
・【省エネ】断熱等性能等級4または、一次エネルギー消費量等級4以上
・【耐震】耐震等級2以上または免震建築物 ・【バリアフリー】高齢者等配慮対策等級3以上 |
2.住宅を購入したタイミング
住宅を購入したタイミング(契約締結)によっても非課税の限度額は異なります。
消費税率10%の住宅を取得した場合の非課税限度額
契約締結期間 | 省エネなどの住宅 | 一般住宅 |
2020年4月~2021年3月 | 1,500万円 | 1,000万円 |
2021年4月~2021年12月 | 1,200万円 | 700万円 |
※新築住宅や不動産会社が売主の中古住宅などを購入した場合
個人が売主の中古住宅など、上記以外の住宅を取得する場合の非課税限度額
契約締結期間 | 省エネなどの住宅 | 一般住宅 |
2020年4月~2021年3月 | 1,000万円 | 500万円 |
2021年4月~2021年12月 | 800万円 | 300万円 |
[3] 非課税制度を利用するときのポイント
「住宅取得等資金贈与の非課税」の特例を利用する際に注意して欲しいポイントを3つご紹介します。
1.贈与税の申告を行うこと
特例を利用する場合は、贈与を受けた翌年2月1日~3月15日までに贈与税の申告が必要です。
申告の際は、贈与税の申告書や戸籍謄本などの必要書類を揃えて、税務署に提出します。
贈与税の申告書は以下の順で作成します。
1.贈与時の財産の時価を計算した後、贈与税額を算出する
2.贈与税の申告書に記入する
3.戸籍謄本などの必要書類を添付する
贈与税の計算は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた価額を合計します。次に、その合計額から基礎控除額110万円を差し引き、残りの金額に税率を乗じて税額を計算します。
計算が面倒!という方のために、便利な速算表をご用意しました。
※速算表の利用に当たっては、基礎控除額の110万円を差し引いた後の金額を当てはめて計算してください。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
具体的な計算方法は、国税庁のホームページからご確認ください。
No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
その他、必要書類などは下記ページを参考にしてください。
国税庁のホームページ【贈与税の申告等】
2.贈与される人の条件
贈与の翌年の3月15日までに行う贈与税の申告では、暦年課税(普通の贈与)ではなく「相続時精算課税」を選ぶこともできます。
相続時精算課税とは、60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子や孫へ贈与をする場合に、贈与額の総額から2,500万円までが非課税になる制度のことです。2,500万円を超えた分は一律20%の贈与税が課税されます。
相続時精算課税を選ぶと暦年課税の基礎控除(年間110万円)は使えなくなりますが、累計の贈与額が2,500万円まで贈与税がかからない特別控除額が利用できます。さらに、先にご説明した「住宅取得等資金贈与の非課税」と併用することも可能です。組み合わせて使った場合、2020年(令和2年)3月までの契約締結で最高5,500万円まで贈与税がかかりません。
ただし、2,500万円の特別控除額分は相続財産に加算され、相続時に相続税として精算されます。さらに、相続時精算課税を選ぶと、贈与者が亡くなるまで本制度の適用が継続されることになるので、途中から暦年課税に変更することはできないのでご注意ください。
3.「小規模宅地等の特例」は受けられなくなる
「小規模宅地等の特例」とは、亡くなった親が所有していた居住用または事業用の宅地を相続する場合に、その一定の面積まで(=小規模宅地等)については、相続税を最大80%減額してもらえる制度です。
この特例を利用すると、相続税が非課税になることも珍しくはありません。
ただ、住宅資金贈与の特例の利用にかかわらず、マイホームを購入すると小規模宅地等の特例は受けられません。そのため、贈与した人が亡くなった時に相続税の課税対象となる自宅の土地の評価額が上がり、相続税の金額が高くなる可能性があるということも把握しておきましょう。
マイホームを購入する際、親や祖父母から資金援助を受ける人は少なくありません。しかし、借り方には注意が必要です。返済日を設けずにお金があるときに返済する方法や、お金を無利息で借りる方法だと、贈与とみなされる可能性があります。
資金援助を受ける場合は、以下の3つの点に注意をしてください。
◎返済は、銀行振込みなど、確実に履歴が残る方法にすること
◎借用書を作成し、両者が署名押印して保管しておくこと ◎借用書の内容通りに返済すること |
たとえ親や祖父母であっても、贈与を受ける際には必ず借用書を作成しましょう。ポイントとしては、「いくらを、いつまでに、どのようにして返済するのか」を明確にしておくことです。そして、返済方法は銀行振込などにして、きちんと返済しているという記録を残しておくことが大切です。