「契約不適合責任」は「瑕疵担保保険」より売主の負担が大きくなる?
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「瑕疵(かし)」とは欠陥・不具合という意味ですが、不動産取引においては、購入段階では気付かず、実際に住み始めてから発見されるような欠陥や不具合のことを指します。そのため、「隠れた瑕疵」とも呼ばれています。
売買後に売主(不動産会社)が知らなかった瑕疵が発見された場合に、売主が責任を負う範囲や対応する期間を定めたものを「瑕疵担保責任」といいますが、2020年(令和2年)4月1日から法改正により「契約不適合責任」に変わります。
瑕疵担保責任から契約不適合責任に変わることで、買主にとっては中古住宅をより安心して買いやすくなりますが、売主にとっては責任や負担が重くなる内容になっています。そのため、2020年4月以降に不動産を売却される予定の方は、契約不適合責任についてしっかりと理解することが重要です。
そこで本稿では、「契約不適合責任」についての基礎知識や、従来の瑕疵担保責任との違い、売主の負担を軽減する対策方法などを分かりやすく解説します。
※2020年4月1日以降の民法を「新民法」、2020年3月31日までの民法を「旧民法」と表現して解説します。
[1] 「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へ
2020年(令和2年)4月1日から「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へ変わります。
瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わる理由として、以下の3つのポイントがあります。
1.わかりやすい民法にする 2.隠れた瑕疵である必要がなくなる 3.買主の請求できる権利の増加 |
新民法では「瑕疵担保責任」という概念は廃止されます。そもそも瑕疵という漢字を読めない人も多いですし、日常で使わない言葉ですよね。それならもっと分かりやすい言葉に変えよう、というのが1つめのポイントです。
2つめのポイントは「隠れた瑕疵である必要がなくなる」がなくなるということ。不動産取引においては、購入段階では気付かず、実際に住み始めてから発見されるような欠陥や不具合のことを「隠れた瑕疵」と呼びます。
旧民法では「隠れた」瑕疵であることを立証するのが難しいという問題がありました。そこで新民法では、隠れていてもいなくても、買主は売主に対して契約不適合責任を追及できるように改正されました。
さらに詳しくいうと、契約不適合責任は、売買の目的物が「種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」は、買主は売主に対して契約不適合責任を追及できるという制度です。
たとえば、雨漏りについて買主が了承していて、売買契約内容に「この住宅は雨漏りしています」という記載があれば、契約不適合責任は負いません。しかし、買主が雨漏りのことを知っていたとしても、雨漏りがあるという記載のない契約書であれば、契約内容とは異なるものを売ったことになり、契約不適合ということになります。新民法の契約不適合責任では、隠れた瑕疵は問われません。契約書に「書かれていたかどうか」が問題となります。
3つ目のポイントは、買主の請求できる権利が増加するということです。詳細は後述しますが、契約不適合責任において売主が契約内容と異なるものを売却した場合、買主は「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」「損害賠償請求」の5つができるようになります。つまり、売主は契約不適合の物件を売却した場合このような責任を負わなければならないということです。
[2] 瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い
瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いは以下のとおりです。
項目 | 瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 |
法的性質 | 法定責任 | 契約責任 |
対象 | 隠れた瑕疵
(本来備わっているべき性能・機能がない) |
契約との不適合
(品質・数量が契約と一致しない) |
請求期限 | 納品後1年以内 | 事実を知ってから1年以内に告知
(ただし納品後5年以内で請求権は消滅) |
買主が請求できる権利 | 1. 契約解除
損害賠償請求 |
1. 追完請求
2. 代金減額請求 3. 催告解除 4. 無催告解除 5. 損害賠償 |
損害賠償責任 | 無過失責任 | 過失責任 |
損害の範囲 | 信頼利益 | ※履行利益(信頼利益も含みます) |
大きな違いとしては、瑕疵担保責任では買主が請求できるのは「契約解除」と「損害賠償」の2つだけだったのに対し、契約不適合責任では「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」「損害賠償請求」の5つが請求できるようになったことが挙げられます。
次項では、契約不適合責任で買主が請求できる5つの権利について詳しく解説します。
[3] 買主が売上に請求できる5つの権利
買主が売上に請求できる5つの権利について、ひとつづつ分かりやすく解説します。
- 1.追完請求
- 追完請求とは、改めて完全な給付を請求することをいいます。種類や品質または数量が契約内容と異なっていた場合、買主は売主に完全なものを求めることができます。
不動産取引においては、売買する商品はひとつです。厳密にいうと「修補請求(欠陥箇所の修理を請求できる)」ということになります。たとえば、雨漏りしていないという契約内容で購入した住宅が雨漏りした場合、買主は売主に対して「雨漏りするので直してください」と請求できるということです。
- 2.代金減額請求
- 追完請求の修補請求をしても売主が修理をしないとき、あるいは修理が不能であるときに認められる権利です。あくまでも追完請求がメインの請求であり、それが駄目な場合には代金減額請求ができます。ただし、明らかに直せないもの、履行の追完が不能であるときは、買主は直ちに代金の減額請求をすることが定められています。
なお、減額請求も、売主に責めに帰すべき事由は不要です。代金減額請求の前提である追完請求が売主に責めに帰すべき事由は不要のため、その代替となる代金減額請求も売主に落ち度がなかったとしても認められることになります。
- 3.催告解除
- 追完請求をしたにも関わらず、売主がそれに応じない場合に買主が催告して解除できる権利です。売主が追完請求に応じない場合、買主は「代金減額請求」と「催告解除」の2つの選択肢を持っていることになります。契約解除された場合、売主は買主に売買代金を返還しなければなりません。
- 4.無催告解除
- 無催告解除は、契約不適合により「契約の目的を達しないとき」に行うことができます。逆にいえば、若干の不具合程度で契約の目的が達成できる場合は無催告解除は認められないということになります。
- 5.損害賠償請求
- 瑕疵担保責任でも買主は損害賠償請求ができましたが、瑕疵担保責任による損害賠償請求は売主の無過失責任とされていました。契約不適合責任では、売主に帰責事由がない限り、損害賠償は請求されないことになっています。また、瑕疵担保責任の損害賠償請求の範囲は信頼利益※1に限られますが、契約不適合責任の損害賠償請求の範囲は履行利益※2も含みます。
※1信頼利益…契約が不成立・無効になった場合に、それを有効であると信じたことによって被った損害のこと(登記費用などの契約締結のための準備費用など)。
※2履行利益…契約を締結した場合に債権者が得られたであろう利益を失った損害のこと(転売利益や営業利益など)
[4] 売主によってどう変わる?
法改正後、物件の売主によってどのような変化や影響があるのでしょうか。売主が不動産会社の場合と、個人の場合でそれぞれ解説します。
1.不動産会社(宅地建物取引業者)が売主の場合
売主が不動産業者の場合、物件の引き渡しから2年以上の期間について瑕疵担保責任を負うことになっています(宅地建物取引業法第40条)。
民法改正後においてもこの規定は継続されますので、売主が不動産業者である場合、売主は契約不適合責任について物件の引き渡し日から2年以上負担するということになります。
民法改正後において変化するポイントは、契約不適合が「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」と定められていることです。契約不適合責任では、隠れた瑕疵は問われません。契約書に「書かれていたかどうか」が問題となります。リフォーム済みの中古物件なら、どこをどのようにリフォームしたのか、雨漏りや損傷している箇所はあるのかをしっかりと契約書に記載する必要があります。
2.個人が売主の場合
個人の方が売主になる場合、売買契約書の代金減額請求権の定めの有無を確認しておきましょう。
個人が売主の売買契約書では、買主が安易に代金減額請求をして後から損害賠償等ができなくなることを防ぐため、代金減額請求権は設けないことになっています。そのため、個人の方が売主になる場合、売買契約書の代金減額請求権の定めの有無を確認しておくことをおすすめします。不動産会社が売主の場合には、売買契約書の中に代金減額請求権が記載されます。買主からすると、個人が売主の物件では代金減額請求ができず、不動産会社が売主の物件では代金減額請求ができるということになります。
[5] 売主の負担を軽減する3つの対応策
従来の瑕疵担保責任には、追完請求も代金減額請求もありませんでした。そのため今後不動産の売却を検討されている方は、売却に向けてしっかりとした対策を練らないといけません。この項目では、売主の負担を軽減する対策をご紹介します。
1.契約の内容を明確にする
契約不適合責任は、「契約の内容」や「目的物が契約内容に適合しているか」どうかが重要です。
先述したとおり、新民法の契約不適合責任では、隠れた瑕疵は問われません。契約書に「書かれていたかどうか」が問題となります。雨漏りやシロアリなどの欠陥がある不動産を売る場合は、契約書に正確に記載しておく必要があります。
2.設備に関しては責任を負わない旨を契約書に記載する
契約の際、設備に関しては一切の契約不適合責任を負わない旨を契約条文に記載しましょう。
中古住宅の設備に不具合が生じることは珍しいことではありません。円滑な取引をするためには、売買契約書の中に「付帯設備の故障や不具合については、修補・損害賠償その他一切の責任を負わないものとする」と記載することが重要です。
3.インスペクション(住宅診断)を受ける
今後は、対象物件に欠陥があるのかないのか、事前に明確にしておく必要があります。
欠陥がある不動産を売る場合は、壊れていることを契約書に正確に記載しておかなければなりません。そのために必要なのが、インスペクション(住宅診断)を受けること。インスペクションとは、専門家が住宅の構造耐力上主要な部分(柱・基礎・壁・屋根など)や、外壁や開口部などの雨水の浸入を防止する部分を調査することをいいます。
ホームインスペクションの合格基準は下記の2点です。
・瑕疵を補修すること
・新耐震基準に適した住宅であること(例外もあり)
ホームインスペクションで瑕疵が発見された場合は、合格基準を満たせるように補修をして再検査を受けましょう。
そして、ぜひ覚えておいて欲しいポイントは、ホームインスペクションは、売主・買主のどちらが行っても良いということ。
もし買主にホームインスペクションを求められたら積極的に応じることをおすすめします。なぜなら、拒否した場合「この物件には何か欠陥があるのではないか」と買主に疑念を抱かせてしまう可能性が高いからです。そして、買主がホームインスペクションを行って不合格だった場合、結果を口外され買い手がつかなくなることも考えられます。買主がホームインスペクション行う場合は、検査結果の守秘義務を締結しておきましょう。
ホームインスペクションを受けるには5~10万円ほどの費用はかかりますが、風評被害や買い手がつかなくなるリスクを軽減できるメリットがあります。診断を受ける検査機関については不動産会社が斡旋してくれるはずですので、確認してみてください。